ネズミといえば天井裏や床下を走り回り、暗く不潔で病原菌のかたまりのように思われがちだが、日本では、家に侵入するネズミはネズミ界のほんの一部にすぎない。
大部分のネズミが森林や草原で人目につかずひっそりとたくましく生活する野ネズミである。
長崎県内に生息する野ネズミの仲間5種の中で、個体数が最も多く分布域も広いのが「アカネズミ」である。
アカネズミ(雲仙市で撮影)

アカネズミはほとんどの島々を含む長崎県内各地に広く生息している。
背中側が茶褐色、お腹側は白い毛で被われ、体長は10cm程度、しっぽの長さも10cm程度の中型サイズである。
夜のなると、大きく発達した後肢ですばやく地上を走り回り、ドングリや小さな虫を捜しまわる。
大きく突出した目玉と大きな耳が目立つ顔立ちから、アメリカにいるアカネズミの仲間がミッキーマウスのモデルであるといううわさがあるが、アカネズミを見ていると本当にそんな気がしてくる。
アカネズミ(雲仙市で撮影)

マウスとラットの違いを調べてみると、実験動物としては、ラットは大型のドブネズミ、マウスはハツカネズミと書いてある。
一般的には大型のネズミはラット、小型のネズミはマウスらしい。
ということは、ミッキーマウスは小型のネズミのことになる。
実物のミッキーマウスはかなり大型だが、ミッキーラットではしっくりこないと思われたのだろうか。
だいぶ昔のことになるが、偶然捕らえたアカネズミをしばらく飼育したことがある。
勤めていた高校の生物室の水槽で飼育したのだが、蓋を開けたとたんすごいジャンプ力で逃げられてしまった。
数日間ではあったが、ガラス越しの姿は美しく、両手で餌をもって食べるしぐさがかわいくて見とれていた。
ネズミ類の調査を行うときには、トラップ調査を実施する。
生け捕り用のシャーマントラップを準備し、中にエサを置いておびき寄せ、ネズミが入ると蓋が閉まって出れないという仕組みだ。
小さい上に夜行性で動きが素早いため、一旦捕獲しないと種の同定は難しいのでネズミ調査での捕獲はやむを得ないと思っている。
ただ、この捕獲には、県に申請して許可を得る必要がある。
私の場合は、種名を知りたいだけなので、捕獲した後は速やかに逃がすことにしている。
県内の多くの場所で調査を実施したが、一番捕獲できたのはアカネズミであった。
ここに使用しているアカネズミの生態写真は、捕獲後に逃がすときに撮ったものである。
だから、本当の野生の姿ではない。
多少顔が引きつっているように見えるのはそのせいかも知れない。
逃がすときには、逃がしてくれてありがとうの雰囲気もなく、あっという間にジャンプしていく。
今まで、シャーマントラップで確認できたネズミ類は、アカネズミ、ヒメネズミ、ハツカネズミ、カヤネズミの4種であった。
ネズミを捕獲する目的のシャーマントラップだが、一番多かったのは、餌に集まったアリ、テンプラ大好きなカニなどである。
一度、回収したトラップを車に乗せて移動していたらアリに噛まれたことがある。
びっくりして車の中を見回したらたくさんのアリが運転席の周りをうろうろしていた。
トラップ回収時に、アリをすべて除去せずに車に入れたためであった。
もちろん、その後の調査では、一匹のアリも残らないように払い落としてから回収するようにしている。
シャーマントラップに餌として天ぷらを入れている。

ネズミがいそうな場所にトラップを置く。

ネズミ捕獲の許可証(この時は一匹も捕獲できなかった)

サワガニの入ったシャーマントラップ

長崎県の男女群島調査に同行させていただいたことがある。
爬虫類を調べる者にとって一度は行きたい島である。
わくわくし通しの一週間であった。
宿泊は女島灯台の(私が行ったときは灯台守の人がいた)の施設。
女島が調査の中心であったが、一日だけ、テントを持って男島にも行った。
目的であったダンジョヒバカリというこの島にしかいないヘビは、昼間にいろいろな場所で確認することができた。
後はアカネズミが見れたらいいなと思っていた。
千人塚という場所に頑張って上陸し、テントを張ってみんなで夜の島を調査していた。
私は途中で飲めないお酒を少し多めに飲んでしまい平らな岩の上で朝を迎えた。
朝から、みんながニコニコしながら、夜にテントの前を走り回るアカネズミを見たと話している。
楽しみにしていたのに、飲めないお酒を飲んでしまい平らな岩の上で朝を迎えたことを後悔している。この下の写真は同じような島ということで対馬のアカネズミにしてみた。
男女群島女島にて(一番右の平らな島が男島)

対馬で捕獲後逃がしたアカネズミ

自然の動物との出会いというのは一回きりのことが多い。その一回きりのチャンスを酒なんぞで失ってしまうとは。ショックが大きかった。