オガタマノキという名前を知ったのは、40年ほど前、多良岳によく調査に行っていた頃だった。
車でいろいろな道を通っていると、日本一の巨樹オガタマノキという立て看板と矢印が示してあった。
植物にはほとんど興味がなかったが、何となく行ってみると、素晴らしい大木で見とれてしまった。
そばにはきれいな説明版もありオガタマノキの魅力を伝えていた。
花の季節ではなかったので、次の年の2月、再度訪問し、真っ白い花とほのかな香りを堪能した。
小長井にある日本一のオガタマノキ

日本一のオガタマノキの立て看板(現在の立て看板)

オガタマノキという樹木の名前は、漢字で書くと「招霊木」となる。
漢字で書くと、何となく分かるように、神様に捧げる木のことで神社に関連している。
神棚に飾る木としては、榊(さかき)が有名であるが、本来ならこの木になるのだろうか。
古事記や日本書紀で語られる、『天岩戸開き』では「あめのうずめの命」が神楽を踊って、天照大神を外に誘い出したとある。
その神楽を踊る際に手に持っていたのがこのオガタマノキと言われている。
この木は、もともと関東以南の日本中にある木なのだが、建材として優れているため自然林にはあまりなく、神社やいわれのある場所に巨樹として残っていることが多い。
オガタマノキは、神社では御神木として大事にされている。
長崎の諏訪神社や松森神社にもご神木の一つとして植えられている。
諏訪神社は、月見茶屋の近くに立て看板とともにあるが大木ではない。
松森神社は有名な職人尽くしで囲われた本殿の中にあり、見事な大木である。
神の領域の中にあるので私たちはその場所には行けないし直接触れることはできないが、本殿の外からその見事な枝ぶりを鑑賞できる。
諏訪神社のオガタマノキとその立て看板

松森神社本殿のオガタマノキ(屋根の上にある大木)

私のおすすめの木を紹介したい。
まずは、神社の境内にあるものではなく自然の中にある大木を二つ。
やはり一番は、オガタマノキとしては日本一の巨樹で、昭和26年に国指定の天然記念物にも指定された「小長井のオガタマノキ」である。
2月下旬、モクレンに似た小さな花を咲かせる頃に見学に行くことを勧めたい。
びっくりするほどの巨大な木の、その枝先一面に小さな白い花が咲いているようすは見事である。
すぐそばに駐車場も完備されているので、誰でもすぐに行くことができる。
小長井にある日本一のオガタマノキ(遠くからでも小山のように見える)

幹の部分を道の上から撮影(人の姿から巨大さが分かる)

オガタマノキの花(2023年3月1日に撮影)

オガタマノキの花を拡大したもの

もう一つの素晴らしいオガタマノキの木は、東彼杵町中尾郷太の原にあるオガタマノキである。
個人所有で大きな幹の周辺はしめ縄で囲われており、木の根元には小さな石祠の八幡神社が祭ってある。
この囲いの中は土足厳禁なので裸足で入らないといけない。
この一帯は美しい茶畑もひろがっているので、その景色とともに一見の価値があると思う。
東彼杵町の茶畑の中にある太の原のオガタマノキ

しめ縄で囲われたオガタマノキの周辺(この中は裸足で入る)

オガタマノキの根元で祭られている石の祠(裸足で入らせてもらった)

次は、神社の境内にあるご神木である。
佐世保市小舟町にある藤山神社の境内にも巨木がある。
この神社はフジの花が有名で、オガタマノキにもフジのツタが絡まっており、藤の花のシーズンは見事である。
あまりにも藤の花が有名なので、オガタマノキの花の時期の訪問者はほとんどいないようである。
残念でたまらない。
藤山神社の藤の花とオガタマノキ(背景の大木)

同じく、佐世保市世知原町にある山口神社のオガタマノキも樹齢数百年とも言われる巨木で一見に値する。
山内神社のオガタマノキ(ご神木としてしめ縄がまかれている)

多分、他にも、地域の神社にはご神木としてのオガタマノキは多いと思う。ぜひ、地元のオガタマノキを見て欲しい。
私の庭にもオガタマノキが植えてある。
園芸種のトウオガタマというそうだ。
小さな庭の一角に植えてみるとだいぶ大きな木に育ってきた。
日本在来のオガタマノキのような大木にはならないとのことなので安心している。
春先には、バナナのような、熟したリンゴのような強い香りの花が咲く。
みんなは、バナナのようなにおいというが、私は熟したリンゴを思ってしまう。
毎春、この花の香りをかぐと春が来たなと思う。
我が家のトウオガタマの花(2023年4月12日に撮影)
