不可思議な動物「キツネ」

 キツネ(狐)は、タヌキと同様に里山を代表する有名な動物なのに、タヌキに比べると何か神秘的な神がかった動物のように感じる。

多くの人が、昔話に登場する姿を思い浮かべ、現在では、ほとんどいなくなってしまったのではないかと思っているようだ。

ところが、意外にも、私たちの周りには多くのキツネがいる。

ただ、息をひそめて、人に見つからないように姿を隠しているのだ。

私たちが気づかないだけで、キツネの方はじっくりと人間を観察しているに違いない。

そんな神秘的なキツネについて話してみたい。

 

自動撮影カメラで撮影したキツネ(2015年9月29日、大村市で撮影)

 


 小さいころからキツネという名前は知っていたが姿を見たことはなかった。

高校を卒業するまでも見たことはなかったし、大学時代も、教員になってからも見たことはなかった。

初めてその姿を見たのは、哺乳類調査を始めてしばらくたってからである。

長崎県の両生爬虫哺乳類を記録しているエクセルデータを見ると、1998年7月31日、午後10時ごろにライトに浮かぶ姿を目撃したと記録している。

島原半島南島原市の諏訪の池付近、雲仙温泉街に向かってドライブ中、突然、ライトの前に現れた。

数秒間だったとは思うが、道路脇の山から出てきたキツネが、車を先導するかのように走ってくれた。

実をいうと、見たことのないキツネに自然の中で遭遇した時、キツネと分かるかどうかは不安だった。

でも、その日に初めて見たのだが、はっきりとキツネと分かった。

背中のきれいな黄金色の毛並み、真っ白なお腹、長いふさふさとしたしっぽとその先端の白い毛。

何よりも犬とは違う大きな耳といわゆるキツネ顔。

初めて見たとしても見間違うことのないキツネの姿と思った。

これは、今後、皆さんが初めて遭遇しても同じ感想を持つと思う。

数秒後、道路脇の山の中に入り見えなくなったが、その場で車を止め、しばらく余韻に浸っていた。

憧れの動物に出会えた喜びは大きかった。

 

 一度目撃すると、不思議なもので、9月8日にも、雲仙市千々石で目撃した。

島原半島なら写真が撮れるはずと思い、翌1999年5月2日、一泊二日のキツネ調査を実施した。

偶然の出会いを求めることと聞き込みによる情報収集である。

夜は、地元の人が入る安い温泉に入り、雲仙温泉街に車を止めて車中泊。

夜のドライブ中、雲仙田代原で3回目の目撃ができた。

翌日、南島原市の西有家の方に車を移動させながら田んぼで作業している人たちにキツネのことを聞いて回った。

西有家町の下見岳付近の田んぼで作業をされていた老夫婦にキツネの話をすると、「そこの田んぼの畔でキツネが子育てをしているよ」とのこと。

その場所を案内してもらうと、高い棚田の田んぼが大きな石で作られている。

その石の隙間の数か所は草がない。

出入り口だよと説明してくれた。

その日は、巣穴が見える高台からキツネの観察。

ほとんど出て来てはくれなかったが、一度だけ、子供と思われる個体が、出入り口から出てきて遊んでいる姿を見ることができた。

ドキドキしながらシャッターを切ったが、遠すぎて小さくしか映っていない。

 

キツネの巣穴があった棚田(中央の石垣)(1999年5月2日 南島原市で撮影)

 

草のないキツネの出入り口(1999年5月2日に南島原市で撮影)

 

巣穴から出て遊ぶ子ギツネ(1999年5月2日に南島原市で撮影)




 満を持して望遠レンズや自動撮影カメラなどを準備し、キツネの巣穴のある場所に行ったのは6月5日(たしか高校総体の代休の日)のことである。

昼間は遠くから双眼鏡で観察し、夕方、巣穴近くに自動撮影カメラを2台設置した。

夜は、車の中で、時々、フラッシュが光るのを見ながらゆっくりと休憩。

朝からカメラを回収し、急いで長崎にもどり、撮影済みのフイルムを写真屋さんへ持って行った。

その当時の自動撮影カメラはデジタルではなく、フイルムカメラだったので、現像とプリントを待つ必要があった。

やっと出来上がった写真、たくさんの犬の写真の中に、数枚だけ見事なキツネが映っていた。

初めてのキツネの写真、嬉しかったなあ。

その後も多くのキツネの写真を撮ったが、この時の数枚が一番いい出来である。

 

自動撮影カメラで撮ったキツネ(1999年6月5日に南島原市で撮影)

 

自動撮影カメラで撮ったキツネ(1999年6月5日に南島原市で撮影)

 

 

 姿をほとんど見ることのない「キツネ」。

県内では絶滅したのではないかと思われがちだが、糞や足跡などの痕跡から判断すると、意外と身近なところで、それなりに生き続けている。

警戒心が強いため人前には姿を現さないが、キツネの方ではみんなをじっくりと見ているだろう。

 

キツネの糞(2009年5月、東彼杵町で撮影)

 

めったに見ることのないキツネの轢死体(1013年11月、南島原市で大向さんが撮影)

 

イノシシ罠に入ったキツネ(撮影後に逃がすとお礼を言っているように見えたとのこと。2022年11月、東彼杵郡龍頭泉で田中さんが撮影)



 私が姿を見たのは島原半島だけだったが、しかし、近年、キツネの情報が多くなっており、新聞にも時々キツネの写真が掲載されている。

 2021年2月のこと、私の勤務する長崎女子短大の構内にキツネが現れ1週間ほど滞在してくれた。

それも、あまり人を恐れず、呼べば近寄ってくる。

ただ、2mくらいまでは近づくがそれ以上は近づかない。

女子学生や先生方は、学園のヒーローとして適当に名前を呼びながら、記念写真を撮っていた。

私も、コンちゃんと名付け、名前を呼びながら何枚も写真や動画を撮らせてもらった。

やがていなくなったが、長崎半島などでキツネのうわさを聞くようになった。

誰かが餌付けをしたのか、または誰かが飼育していたものかは分からないが、とにかく近寄ってくる姿がかわいかった。

 

人に慣れているキツネ(2021年2月、一応コンちゃんと名付け長崎女子短大中庭で撮影)

 


 2024年12月23日の長崎新聞に、「長与のまちなか キツネの姿」という記事が掲載された。

西彼杵郡長与町の町中を昼間に闊歩している姿が多くの町民に目撃されたようだ。

その際に、コメントを求められたので、「昔は人前に出ることはなかったのに、最近の新世代キツネは人が好きなのかな」と答えておいた。

 

 

 キツネといえば稲荷神社の神のお使いとしてとして有名。

赤い鳥居と狐が神社の入り口に構えている。

 

諏訪神社の中にある稲荷神社(赤い鳥居とキツネがシンボル)

 


長崎では「おくんち」という有名なお祭りがあるが、個人的には、長崎市伊良林にある若宮稲荷の「竹ン芸(たけんげい)」が好きで何回も見に行った。

このお祭りの目玉は、高さ10mもある青竹の上で行われる命綱なしの大胆な空中芸。

大歓声が沸き起こる。

この空中芸、神社の使いである男狐と女狐が裏の竹藪で楽しげに遊ぶ姿を模したものだそうで、白装束の2匹の狐が笛や太鼓のお囃子にのせてのアクロバテイックな姿を見せてくれる。

 

若宮稲荷神社(2018年10月15日に撮影)

 

若宮神社の竹ン芸(男狐と女狐)(2018年10月15日に撮影)

 

若宮神社の竹ン芸(男狐が餅を巻いている)(2018年10月15日に撮影)

 


狭い境内だが、この日だけはお客さんでいっぱい。

青竹の上の狐さんが投げた、縁起物の餅を拾うのが楽しみである。