アナグマという動物の名前、タヌキやキツネと違い一般的には馴染みがない。
アナグマという名前を言うと、長崎にもクマがいるのですかという返事が返ってくる。
そのたびに、なんでこんなややこしい名前を付けたのだろうと思ってしまう。
アナグマ(諏訪神社内のどうぶつひろばで撮影)

アナグマはクマという名前はついているが熊ではない。
タヌキによく似たイタチの仲間である。
名前の通り穴掘りが得意で、前肢の爪は大きく鋭く土を掘るのに適した形になっている。
ただ、タヌキに似ているといっても、穴の中での生活に適するよう肢が短くずんぐりした体型なので識別可能ではあるが、普通の人には難しいかもしれない。
さらに、近年増加しているアライグマもよく似た体形である。
尻尾のわっかのしま模様が一番の識別点だが、見た目はよく似ている。
自然の中で、この3種を見分けられたら、かなりの野生動物のベテランであろう。
アナグマ(佐賀県で撮影)

タヌキ(西海市で撮影)

アライグマ(佐世保市、森きららで撮影)

猟師さんから、ハクビシンという動物を捕獲した、という話を聞くことがある。
2度ほど、捕らえたものを見に行ったことがあるが、2匹ともアナグマの子供であった。
子供のアナグマは、顔の中央にある白い毛がはっきりしており、図鑑で見るハクビシンに似ているからだろう。
個人的には、長崎県にはハクビシンはいないと思っている。
九州でも確実なハクビシンの記録はほとんどない。
もし、ハクビシンという名前がでたら、アナグマの子供と思っていいだろう。
ただし、今後、侵入してくる可能性は大いにあるので注視すべき動物といえよう。
ハクビシン(関東地方で撮影)

アナグマ(長崎市県民の森で村田氏が撮影)

アナグマの交通事故による轢死体はよく見かける。
道路をよたよたと歩いている姿を見たら、交通事故にはあいやすいだろうなと思ってしまう。
ただ、多くの人がタヌキの死体と思っている。
タヌキの死体があると聞いて見に行くと、タヌキとアナグマが半々という感じである。
たくさんの写真を撮ってはいるが、死体の写真は、ここには掲載しないでおこう。
アナグマは、九州・四国・本州に分布し、長崎県内でも県本土に広く生息している。
狩猟鳥獣で以前はよく狩られていたらしいが、今は猟をする人も少なくなり、個体数は増加傾向になっている。
アナグマにとってはすみやすい世の中になりつつあるようだ。
人家周辺の草原や林中が生活場所で道路上にもよく出現する。
夕方や夜間が主な活動時間だが、昼間でも時々見かける。
道路脇の落ち葉をかき分けながら必死にえさを捜しているのだろう。
そんな時は、こちらに気づかず目の前まで歩いてくる。
以前、アナグマが道路脇にいたので、静かに車を降り、進行方向で静かに待っていたら、目の前まで来た。
数mの所で、何かの気配を感じたのかパッと頭を上げ、私を見た。
「こんにちは、お食事中ですか」と声をかけると、慌てふためいて今来た道を走って逃げて行った。
その時のびっくりした顔が忘れられない。
同じような経験をした人も多いのではないだろうか。
アナグマ(大村市に設置した自動撮影カメラで撮影)

アナグマの巣穴は比較的簡単に見つけることができる。
もう、30年以上も前の話だが、自宅近くのミカン畑の斜面で直径30~40cmの楕円形の深く入り組んだ穴を見つけた。
何の穴だろうと気になり、反対側の丘から双眼鏡とカメラを構えて観察したことがある。
長丁場の観察を予想してじっくり待っていたら、巣穴にもどってくるアナグマが見え、中に入っていった。
慌てて写真を撮ったので少しピンボケしているが、哺乳類の調査を始めて間もないころの、疑問が一気に解決したときの感動の一枚なのでお許しいただきたい。
なんでも同じだが、一度発見すると次々に見つかるもので、他の場所でも見つけることができた。
佐賀県の方では、大きな河川の堤防にアナグマが巣穴を掘り、国土交通省の河川事務所が堤防決壊の原因になるのではと調査をされたことがある。
実際に見せてもらったが、堤外に掘られた穴が堤内まで貫通したら洪水の時大変だろうなと思ったが、その心配はないという結論だった。
巣穴に入るアナグマ(西彼杵郡長与町で撮影)

アナグマの巣穴とけものみち(西彼杵郡長与町で撮影)

アナグマの巣穴の入り口(西彼杵郡長与町で撮影)

アナグマの巣穴の内部(入口付近を撮影、西彼杵郡長与町で撮影)

アナグマの巣穴(長崎市で撮影)

一応、トイレや足跡の話もすべきだろう。
トイレの作法は実に立派で、どこにでも出しっぱなしではない。
岩陰や木の根元の目立たない場所に、少しだけ土をならして、謙虚に親指サイズの黒い糞をする。
トイレ中の姿を見たことはないが、どんな様子で排せつしているのか想像するのは楽しい。
足跡も他の動物より分かりやすい。
5本の指に、大きな爪の跡。
キツネやタヌキはイヌ科なので4本の指の跡、イタチ科のアナグマは5本の指の跡になる。
アナグマの糞(諫早市で撮影)

アナグマの足跡(佐賀県で撮影)

30年ほど前にアナグマ肉を食する機会があり、焼き肉で食べさせていただいた。
脂ののった焼肉は、実においしいく牛肉に勝るとも劣らない味であった。
昔からよく食べられていたという話は本当だと思う。
ジビエ肉としては、シカ、イノシシ、タヌキ、アナグマ、アライグマを食べたことがある。
私個人の感想としては、圧倒的一位でアナグマ肉を推薦する。
アナグマの家族(佐賀県で撮影)

アナグマの家族(佐賀県で撮影)