2017年7月のこと、3匹の冷凍標本が私のもとに送られてきた。
オキナワキノボリトカゲのようだが確認して欲しいとのことだった。
私は見たことがないトカゲ、図鑑で調べるとオキナワキノボリトカゲらしい。
専門家の先生に標本を送り「オキナワキノボリトカゲ」で間違いないという返事を頂いた。
ここで問題なのは、名前の通りに沖縄の生物なので、長崎の地にはいるはずがないということだ。
いるはずのないオキナワキノボリトカゲが長崎の地で発見されてしまった。
沖縄で撮影されたオキナワキノボリトカゲの雄(友人が撮影した)

沖縄で撮影されたオキナワキノボリトカゲの雄(友人が撮影した)

オキナワキノボリトカゲは、奄美諸島や沖縄諸島に生息し、頭胴長70mm、尾長200mmという長いしっぽが特徴の木登りを得意とするトカゲの一種である。
美しい緑色の体色なので、県本土に生息するトカゲと見間違うことはない。
近年、宮崎県の日南市や鹿児島の指宿市で分布が確認され、国内移入種としてどのように対応していくかが苦慮されている。
ちなみに、国内移入種とは日本国内での移動のことで、外国から入ってくる外来種とは区別している。
奄美諸島や沖縄諸島のオキナワキノボリトカゲは絶滅危惧種に指定されるほど減少しているそうだ。
もともとの生息地では減少しているのに、本来の生息地ではない場所では増え続けている。
どんどん捕まえて、沖縄や奄美に離せばいいのではないかと思うが、どの地域からの個体かわからないので難しいという。(図3 図4)
宮崎県で捕獲したオキナワキノボリトカゲ(オスは大きくて緑色が鮮やか)

宮崎で撮影したオキナワキノボリトカゲの雌(木肌と同じ色で小さく目立たない)

標本が送られてきたいきさつを紹介したい。
その標本は、長崎県松浦市の海岸近くの人から西海国立公園事務所に生きている状態で運び込まれた。
しばらく飼育していたがやがて死亡したとのこと。
その後に運び込まれた2匹の死体とともに、合計3匹が私のもとに送られてきた。
最初に送られてきたオキナワキノボリトカゲの標本

私は、すぐに松浦市のオキナワキノボリトカゲを運び込んでくれた人のもとに行った。
話によると、子供さんが「カメレオンみたいな動物を猫が捕まえていたので奪い取った」という。
その生きている姿を見て、長崎在来のトカゲとは違うと感じて公園事務所に持ち込んだそうだ。
捕獲してくれた猫は、数匹の放し飼いの猫の中の「チャチャ」という名前。
数日間、チャチャのことをよく観察してみると。
チャチャは、時々、家のすぐ裏の森に入り、10分くらいで口に変なトカゲをくわえて裏庭に戻ってきた。
それが何回も見られたそうだ。
捕まえてきた獲物は仲間で食べていたらしい。
たまに、捨ててある死体や生きている姿を見つけることもあったということだった。
しばらくすると、生きている個体2匹が手に入ったという連絡が入ったので、貰いに行き、飼育を試みた。
どうも、チャチャの成果らしい。
最初に発見されたオキナワキノボリトカゲのすむ森林(今は西九州道になった)

研究室で飼育中のオキナワキノボリトカゲの雄と雌(飼い猫チャチャが採集)

後日、多くの人の協力を得て何回も調査を実施した。
オキナワキノボリトカゲの生息する琉球大学の爬虫類の専門家にも現場の調査をお願いした。
そうすると、チャチャが捕獲してきた場所周辺にそれなりに生息することが分かってきた。
詳しい調査の必要性を感じ、「森きらら」のスタッフを中心に調査チームが形成され定期調査が始まった。
目撃による個体数調査だけではなく捕獲も行っている。
捕獲は釣り竿の先につけた糸でわっかを作り、首に引っ掛けて釣るという方法。
わっかを目の前に持っていくと餌と勘違いしてか逃げずにいるので簡単に釣ることができる。
ベテランになると簡単なようだが私には難しく釣ることはできなかった。
木の上にいるオキナワキノボリトカゲを竿先の紐のわっかで捕獲中

捕獲したオキナワキノボリトカゲ(釣り用の糸で捕獲したところ)

釣った後のオキナワキノボリトカゲの雄

捕獲したオキナワキノボリトカゲを計測中

長崎県松浦市で発見されたオキナワキノボリトカゲ。
調査の結果、松浦市の海岸に近い人家周辺の森の限られた範囲が生息域であること。
温かい季節にはいつも発見できるが寒い季節は見られないのでどっかで冬眠していること。
成体も幼体も見つかることから、この地で繁殖し定着していること。
などが分かってきた。
樹上中のオキナワキノボリトカゲ(枝の中央に見える)

幹にくっつくオキナワキノボリトカゲの雌(保護色で見つけにくい)

びっくりすることだが、本来の生息地である温かい地域の動物なのに寒い松浦の森に生き続けているのだ。
地地球温暖化の影響もあるのかもしれない。
冬の寒さに適応してきたのかもしれない。
なぜいるのか。
どのくらいいるのか。
いつからいるのか。
生態系への被害はないのか。
などと疑問は尽きないが、少しずつでも解明していけばと思っている。