世界最小のネズミ『カヤネズミ』

 1回目の東京オリンピックのころ我が家にテレビがきた。

そのころ見た番組で覚えているのは、ポパイ、名犬ラッシー、ララミー牧場などとともに「トムとジェリー」である。

今回、紹介するカヤネズミはネズミのジェリーにそっくり。

私にはそう見えるのだが、下の写真を見て皆さんはどう思われるだろうか。

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)

 


 ネズミといえば、伝染病を媒介する不潔なイメージで敬遠されることが多い。

しかし、それはドブネズミなどほんの一部で、多くのネズミ達は草原や森にすみ(一般的に野ネズミと呼ばれる)、人間に知られることなく、細々と、でも、したたかに自然の中で生きている。

長崎県に生息する野ネズミは5種類。

山にいるのがアカネズミやヒメネズミ、そしてスミスネズミ。

スミスネズミについては死体の写真しか持たないので、ここでの掲載は控えようと思う。

イネ科植物の草原にいるのがカヤネズミ。

ハタネズミも記録はある。

しかし、私は見たことがないので写真は持ち合わせていない。

 

アカネズミ(2002年8月、雲仙で撮影)

 

ヒメネズミ(1999年9月、多良岳で撮影)

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)

 

 私にとってネズミ界のヒーローはカヤネズミ。

その理由は、とにかく小さくてかわいいからだ。

日本名「カヤネズミ」は、学名(世界共通の呼び名)Micromys  minutus で、小さい小さいという意味である。

カヤネズミのサイズは、頭胴長が5~6㎝で尾の長さはそれよりやや長い程度、体重も10g前後。

背中の毛色は茶褐色、お腹は真っ白でとても美しい。

手の上に載っている写真を見てもらうと分かるが、本当に小さい。

ちなみに、写っているのは私の手、サイズがお分かりいただけるだろう。

ネズミを手の上に乗せて大丈夫かなと思われたかもしれない。

この時は、いくら触ってもおとなしくて噛みつくこともなかった。

実験室で飼育されているからかもしれないが、野生の個体を捕獲したときも、他のネズミのような感じではなかったので、おとなしい性格かなと思っている。

ずっと昔、ある高校に勤務していた時、生物室で飼育したことがある。

60cm水槽にイネ藁を敷き、餌としては米などの穀物を与えると、丸い巣を作り子供もたくさん産んでくれた。

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)



 日本名の由来は、ススキやチガヤ(カヤという総称で呼ばれる草)の葉を上手に編み込んで、その株の中に直径10cmぐらいの丸い巣を作ることからきている。

水田のイネにも巣を作ることがあり、農家の人には稲刈りの時期にお馴染みのネズミ。

草の実や小さな虫を食べているので水田の稲の中に巣を作れば、周り中餌だらけ、カヤネズミにとっては天国のような所かもしれない。

 

カヤネズミの巣(2007年10月、対馬で撮影)

 

カヤネズミの巣(1993年11月、五島福江島で撮影)



 日本の固有種ではなく、ユーラシア大陸に広く分布しており、日本では西日本全域が生息域となっている。

長崎県の分布状況については、かなりの時間をかけて調べてみた。

ネズミ類の成体を見つけることは難しいが、カヤネズミは特徴的な球状の巣が簡単に見つかるので調査が簡単なのだ。

ちなみに、野外で成体を見たのは2回だけ。

写真撮影は1回だけ成功したが、出来栄えはこの程度である。

 

野生のカヤネズミ(1998年10月、諫早市で撮影)

 

野生のカヤネズミ(1998年10月、諫早市で撮影)



 調査の結果、県本土はもちろんのこと、五島列島、平戸、対馬とその近辺の島々でカヤネズミの巣を確認した。

大きな島ならほとんど島に生息しているといっていいだろう。

調査を継続していると、「何となくここにはいるな」と感じるようになってきた。

この感はだいたい当たるようにはなっていたのだ。

しかし、そんな場所をいくら調査しても、壱岐の島だけでは発見することができなかった。

生息するという証拠は巣1個を見つければよいが、生息しないという証拠は難しいものである。

偶然、見つけることができなかったからかもしれない。

一人の調査では不安だったので、専門家を呼んで数日間調査してみたこともある。

でも、見つからなかった。

個人的には「壱岐にはカヤネズミは生息しない」と思っている。

周りの島々のどこにでもいるのに壱岐だけにいないのはなぜだろう。

昔から分布しないのか。

いたけど何らかの理由で絶滅したのか。

理由は分からないが、事実なのでしょうがない。

こんなことがあると、調査の楽しさを感じてしまい、一人でにやけてしまう。

 

壱岐の山間の水田地帯(調査地点の一つ)  


 

 カヤネズミの調査を始めたころ、巣が見つかると中をのぞいていた。

その時、中に小さな子ネズミが入っていることがあった。

嬉しくなって写真を撮っていたが、人間が巣に手を触れると親ネズミはその巣を放棄して子ネズミは死んでしまうということを聞いた。

元の状態に戻してはいたが、あの時の子ネズミたちは捨てられて死んでしまったのかなと申し訳ない気持でいっぱい。

その後は、写真を撮るだけにしている。

 

カヤネズミの巣(2004年10月、諫早市で撮影)

 

カヤネズミの巣の中(2004年10月、諫早市で撮影、中に赤ちゃんが見える)



 カヤネズミは長崎県の絶滅危惧種に指定されている。

その理由は、生息場所であるイネ科植物の草原が減少していることからであろう。

このかわいいネズミが長崎の地で生き続けられるよう、カヤの草原をずっと残していければと思う。

 

カヤネズミ(九大で飼育中の個体を撮影)

 

カヤネズミの巣(2022年11月、長崎市で撮影)