嫌われものの「ドブネズミ」

 十二支では最初に出てくるネズミ。

身近な動物ではあるが直接目にすることはあまりない。

その中で、みんなが知っているネズミの種名は「ドブネズミ」ではないだろうか。

聞いただけで不潔の代表みたいに感じるが、その姿を目にする事は稀。

それでも、町中でネズミ調査していると、昼間でも下水や河川で見かけることがある。

私が、普段の調査で、昼間に走り回るネズミを見たのはドブネズミだけである。

 

 ネズミの仲間は世界中にたくさんいるが、そのほとんどが山や草原、畑地にすむ「野ネズミ」である。

しかし、一部が人間界に入り込み、人家やその周辺で生活し「家ネズミ」と呼ばれるようになった。

日本では、ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミがその代表であり、人々に多くの被害を与えている。

 

ドブネズミ(2000年8月、佐賀県で撮影)

 

クマネズミ(2003年2月、西海市で撮影)

 

ハツカネズミ(2004年10月、諫早市で撮影)



 ネズミといえば天井裏を走り回るシーンを思い浮かべるが、天井裏や高いところにいるのはクマネズミであり、ドブネズミは、名前の通り床下の下水や河川など湿った場所を好む。

いわゆる「ドブに棲むネズミ」である。

ハツカネズミは3者の中で最も小さく人家ではドブネズミとクマネズミに追いやられて、人家周辺で見られることが多い。

 

 ドブネズミは、すんでいる環境が汚い場所なので汚く感じるが、数回見た野生の姿はたくましく愛嬌があるようにも見えた。

原産地は中央アジアといわれている。

しかし、今では、人間の移動に伴い世界中に分布を拡げており、日本にもかなり昔に侵入してきたらしい。

ドブネズミは何百年も前に日本に侵入してきた外来種なのだ。

今や、日本中といわず世界中の人の生活圏ならどこにでもたくましく生き続けている。

3種の家ネズミの中では最も巨大で場合によっては小さなネコぐらいの大きさにもなるそうである。

 小学生の時、漁師町にすむ友人の家に行ったとき、近くのごみ捨て用の箱で大きなネズミを見つけた。

騒いでいたら、友人の父親が近くでお昼寝をしていた野良猫を箱の中に入れた。

普通ならネズミはネコのエサなので喜んで追い詰めるはずだが、野良猫はあわてふためいてゴミ箱から逃げ出してきた。

その後ろを、悠々と大きなネズミがはい出してきた。

ネコより大きく見えた(?)ネズミだったので、ネコでも逃げ出すだろうと思ったことを覚えている。

今考えると、あれがドブネズミなのだろう。

 

河川内で見られたドブネズミ(撮影年は不明、諫早市で撮影)

 

 私たちは、ネズミ調査の時にはシャーマントラップという生け捕り用の罠を使う。

写真のような箱の中にエサを置き、中に入ると蓋が閉まり出られなくなるという仕組みだ。

今まで、何十回となくトラップを設置しての調査を実施したが、ドブネズミが捕れたことは一度もない。

人家周辺にも設置したがシャーマントラップでは取れなかった。

クマネズミは人家の高いところにいるので捕獲できないことは分かるが、ドブネズミはいるはずなのにまったく捕れない。

なぜかだろうか。

捕れるのはハツカネズミばかりであった。

 

ネズミ捕獲用のシャーマントラップに誘い込むための餌を入れている

 

ネズミが通りそうな場所にシャーマントラップを設置する

 

 ドブネズミが捕れたのは市販のネズミ捕獲用のかご罠である。

1回目は佐賀での調査の折、友人のかご罠にかかったものである。

耳は比較的小さく、体色は褐色がかった灰色、腹面は白っぽかった。

足の部分が白いのが特徴で、かごの中でキーキー鳴いていた。

自然の姿を撮影するために、袋小路の場所で、かご罠から出した。

写真を見ると引きつったような顔つきに見える。

逃げ場のない場所で、数人の人間に囲まれているので、しかたのないことだろう。

我々素人の撮影では自然界の生き生きとした姿を写すのは難しいので、こうするしかないのである。

本当のことを言うと、私のネズミ類の写真は、すべて捕獲後に「さも自然に見える形で」撮影したものである。

2回目は、西海市で捕獲したもので、60cm水槽に入れてゆっくりと写真撮影。

少しは自然な姿に見えると思うが如何だろうか。

 

かご罠に入ったドブネズミ(2000年8月、佐賀県で撮影)

 

顔のひきつったドブネズミ(2000年8月、佐賀県で撮影)

 

水槽内のドブネズミ(2019年12月、西海市で撮影)

 

水槽内のドブネズミ(2019年12月、西海市で撮影)

 

 

 グリム童話に「ハーメルンの笛吹き男」がある。

ハーメルンの町にネズミが大繁殖し人々を悩ませていた。

市長がネズミを退治した者に褒美を与えようといった。

ある日、笛吹き男が現れ、笛を吹きながら町中のネズミを集めて行進し、川の中ですべて溺死させた。・・・・・。

初めてこの童話を読んだ時にはネズミのことをあまり知らなかったのでそんなことがあるかもねと思ったぐらいだった。

でも、今読んでみると、このネズミたちは町に棲み、群れて生活し、川の中にも入っていくからドブネズミかなと思ってしまう。

 他にも、イソップ童話に「ねずみの恩返し」、「町のねずみといなかのねずみ」、「ネズミの恩返し」があるし、日本昔話の「ねずみの嫁入り」などなど、ネズミの話題はたくさんある。

 

 ネズミは実験用や愛玩用にペット化されている。

10年ほど前のことだろうか、バイオパークでまだら模様のおとなしいネズミを見た。

ペット化されたドブネズミということだった。

可愛かったので手の上にも載せ触りまくった。

 

ペット化されたドブネズミ(非常におとなしく人なれしていた)

 

 日本では、大きくても小さくてもネズミという名称を使うが、西洋では、小さな可愛いハツカネズミは「マウス」、大きなクマネズミやドブネズミは「ラット」と呼ばれる。

日本語では同じネズミだが、英語では大小で区別され名付けられているのはおもしろい。

お国柄なのだろう。

そう考えると、デズニーランドにいるミッキーマウスは、大きいから「ミッキーラット」ではないかと思う。

こんなことを言うと、ファンからは叱られるだろうか。