長崎県でカエルの調査を始めてから50年以上になる。
自分でもよく飽きずに続けたものだと感心してしまう。
継続できたのは、自らのカエル愛というより、周りの圧力によるもの。
市や県からカエルに関していろんな委員を任され、いろんなことに答えていかなければならない。
環境省や国土交通省からのいろいろな仕事も入ってくる。
高校教諭時代は生物の教員であったし、現在の長崎女子短大でも生物関係の講義を持っている。
外圧はすべてカエルの調査を継続することを求めているのである。
まあ、嫌いでもないので、だらだらと続けているし、体が動く限り継続していくだろうと思っている。
他に取り柄がないという声も聞こえるが、その通りだからしかたがない。
調査の継続により、長崎県のカエルがある程度分かってくると、長崎県のカエルの本を出版したいと思うようになってきた。
2005年2月、長崎新聞社から「長崎県の両生・爬虫類」という155ページの本を自費出版してしまった。
自費出版した「長崎県の両生・爬虫類」(2005年2月に発行)

50年間の調査においてこだわっていることがある。
一つ目は、長崎県に固執するということ。
お隣の佐賀県や熊本県には全く関心を持たない。
長崎のカエルのことなら松尾に聞けと言われるようになりたかったので、他県のことを見る暇はない。
二つ目は、焦らないこと。
大学院生であれば1年で終わることを、10年以上かけても構わない。
本来の仕事を第一に考えて本末転倒にならないように心掛けた。
仕事が忙しい時は、来年もあるときっぱりあきらめる。
三つ目は、家族に迷惑をかけないこと。
そう思ってはいたが、かなり迷惑をかけたであろうことは否めない。
現在、取り戻そうと努力している。
私の調査の目的は、どこに何ガエルが生息するかという分布を調べることである。
このテーマを設定したのは、長崎県が日本一の島の数を有しているので、島ごとのカエル相をまとめてみたいと思ったからである。
しかし、有人島だけでも60数島ある。
気になる無人島も出てくる。
人のすむ島なら定期船があるので安価に行けるが、無人島となると瀬渡し代も高くつく。
一応、有人島はすべて上陸し調査を実施した。
無人島もかなり上陸した。
それでも目的のカエル相の解明にはいたらない。
だから、50年以上も続けているのだろう。
ちなみに、国土地理院によると、日本の島(海岸線の長さが100m以上)の数は14,125島で、長崎県は1,479島で日本一となっている。
江ノ島港(2014年5月に訪問):平戸と上五島の間にある有人島

大立島(2013年5月に訪問):平戸島と上五島の間にある無人島

長崎県に何種類のカエルがいるかを紹介したい。
14種である。
2年前の2023年までは長い間13種となっていたが、2023年8月に新種のゴトウタゴガエルが発見されたので14種となった。
14種のうち3種は長崎県の固有種である。
対馬のツシマアカガエルとチョウセンヤマアカガエル(朝鮮半島にも分布)、五島列島のゴトウタゴガエルである。
長崎県に生息するカエルの名前を紹介したい。
アマガエル科 ニホンアマガエル
ヒキガエル科 ニホンヒキガエル
アカガエル科 ゴトウタゴガエル タゴガエル チョウセンヤマアカガエル
ツシマアカガエル ニホンアカガエル ヤマアカガエル ウシガエル
ツチガエル トノサマガエル
ヌマガエル科 ヌマガエル
アオガエル科 シュレーゲルアオガエル カジカガエル
50年間調査してきて気になっていることの一部をあげておきたい。
トノサマガエル
昭和の時代まではどこの水田にも普通に生息していたが、その後激減し、今ではほとんど見られなくなった。
長崎県版RDBでは絶滅危惧ⅠA類の最高ランクになっている。
最近は田んぼのカエルから池のカエルになっている気がする。
それでもいいから頑張れといいたい。
トノサマガエル(1998年6月、大村市で撮影)

ヌマガエル
小型の小さな茶色のカエル。
乾燥にめっぽう強く分布域を拡大している。
特に、壱岐では全島支配、対馬では中央部の美津島町や豊玉町を支配しさらに拡大を狙っている。
最も普通にどこでも見られるカエルである。
多くのカエルたちが減少してる現在、せめて、ヌマガエルさんには頑張って欲しいと思っている。
ヌマガエル(2019年7月、平戸市で撮影):背中の白い線(背中線)がある個体

ヌマガエル(撮影日不明、西彼杵郡長与町で撮影):背中線のない個体

チョウセンヤマアカガエル
対馬と朝鮮半島の特産種だが、対馬では近年激減している。
産卵場所である深めの水場がなくなっているためと思われる。
長崎県では一番減少しているカエルだと思う。
長崎県版RDBでは絶滅危惧ⅠB類というⅠA類に次ぐ高いランクである。
ⅠA類という絶滅危惧最高ランクにしたいところだが、まだまだ調査不足。
チョウセンヤマアカガエル(1983年3月、対馬市美津島町で撮影)

ゴトウタゴガエル
2023年8月に新種記載された五島列島の固有種である。
新種記載の調査に関わり、学名に松尾の名前を付けていただいた。
学名は「Rana matsuoi」である。
嬉しかった。
ゴトウタゴガエル(1986年8月、上五島町で撮影)

ニホンアカガエル
山際の水田や湿地に産卵する普通のカエルであったが、水田の放棄により産卵場を失い減少している。
私たちニホンアカガエルを守る会と地元自治会、長崎市が協力して長崎市相川町の休耕田で保全活動をしている。
一番頑張って保全しているカエルである。
ニホンアカガエル(2012年2月、長崎市相川町で撮影)

それでは、日本と世界では何種類ぐらいのカエルがいるのだろう。
日本のカエルの種数は、日本爬虫両棲類学会の日本産爬虫両棲類標準和名リストによると54種(2025年10月16日現在)となっている。
世界のカエルの種数は、Amphibian species of the Worldによると、7880種(2025年10月23日現在)となっている。
昨日調べたら7879種だったので1日で1種増えたことになる。
まだまだ知られていないカエルが地球上にはたくさんいるのだろう。
カエル好きの人、カエルの新種発見に挑んでみませんか。