野生の兎「ニホンノウサギ」

 昭和の30年代後半のころ、現在のハウステンボスは広大な草原で、私たちは自衛隊跡と呼んでいた。

今は、その当時の見る影もなく、立派な施設のハウステンボスになっているが、実家からそこを見ると広大なススキ原が目に浮かんでくる。

この自衛隊跡は私たち子供のいい遊び場所になっていた。

一番の記憶は、草原の間を自転車で走り回り、隠れているノウサギを追い回したことである。

 

ニホンノウサギの成体(2003年5月、西海市西彼農高で撮影)

 


 イソップ童話「ウサギとカメ」で有名なウサギ類は長崎県にも生息している。

名前はニホンノウサギ(ノウサギ)で、体色は茶褐色で自然界では目立たない保護色になっている。

草原や森林が主な生息地である。

北海道を除く日本全域に広く分布し、いくらかの亜種に分けられている。

雪の多い地方では冬場は真っ白い毛になるらしいが、長崎では茶褐色のまま1年中変わらない。

ノウサギは夜行性のため昼間目撃することはほとんどない。

昼間は、草の中や森の中でじっと潜んでいる。

その潜んでいる場所に偶然出くわすと、慌てたノウサギが走り出す。

それを追いかけまわすのが子供のころの楽しみだったのだ。

ノウサギからすれば迷惑な話である。

ノウサギを見たいなら、夜間、山中の道を車で走るとよい。

道路脇に出て食事しているノウサギが、ライトに照らされて逃げ惑う姿が目撃できる。

でも、昔ほどノウサギを見かけることが少なくなった。

もしかしたら、長崎のノウサギは減少傾向にあるのかもしれない。

 

ジャンプするノウサギ(2010年1月、大村市で撮影)


    ノウサギの姿を直接見ることは難しいが、その痕跡は多くの場所に落ちているし残っている。

一番は、特徴的な直径1cm程度の丸い糞である。

シカの糞も同様な形状なので、シカのいる場所では注意が必要になってくる。

 

ノウサギの糞(撮影年代不明、長崎市で撮影)

 


 湿った土の上では特徴的な足跡も観察できるし、雪の降った日にははっきりと足跡が残っている。

若いころは雪が降ると嬉しくなり、森の中の獣の足跡を捜しまわっていたが、今では炬燵から出れなくなってしまった。

いろいろな調査は体が動く若い頃だからできたのだと、この歳になるとしみじみと感じてしまう。

 

湿った土の上に残ったノウサギの足跡(撮影年不明、佐賀県で撮影)

 

雪の上のノウサギの足跡(2004年1月、諫早市轟の滝付近で撮影)

 

雪上のノウサギの足跡の連続(2004年1月、諫早市轟の滝付近で撮影)




 25年ほど前、西彼農業高校に勤めている時、農業の実習中にノウサギの子供を捕まえたと聞き、すぐに写真を撮らせてもらった。

 

ノウサギの幼体(2003年4月、西海市西彼農高で撮影)


その子ウサギは、ある生徒が育てたいと申し出て、自宅で飼育するようになった。

ある日、その生徒に、大人のノウサギの写真が撮りたいとお願いしたら、学校まで持ってきてくれた。

飼い主によく慣れていて、いいポーズで、さも野生のノウサギのようにふるまってくれた。

現在使用しているノウサギの写真は、大人も子供も農高時代に撮らせてもらったものである。

当時、交通事故による轢死体しか持たなかったので大変助かったことを覚えている。

 

ノウサギの成体(2003年5月、西海市西彼農高で撮影)


昼間の調査中や夜間調査の時に車の前を走るノウサギを見ることがあっても、生態写真は持たなかった。

普通に生息する野生動物だが写真を撮るとなると難しいのだ。

この時に撮らせてもらった写真は、私の持っているノウサギの唯一最高の写真である。

実は、いろんな場所に設置した自動撮影カメラにもノウサギはよく写っていた。

しかし、西彼農高での写真に比べると見劣りがする気がして、この写真ばかりを使っている。

 

自動撮影カメラで撮ったノウサギ(2010年1月、大村市で撮影)

 

自動撮影カメラで撮ったノウサギ(2010年1月、大村市で撮影)



 ちなみに、学校や動物施設で飼育されているウサギはアナウサギという名前の別種で、穴を掘ることに由来している(日本のノウサギは穴は掘らない)。

原産地はヨーロッパのイベリア半島やアフリカ北西部だが、品種改良がすすみ、ペット屋さんでも人気商品となっている。

「ネザーランド・ドワーフ」という品種が有名だが、サイズや色や毛並みが変わっても、アナウサギという1種類である。

もし、野外でカラフルなウサギを見たら、日本固有のノウサギではなく、逃げ出したアナウサギだと考えてよい。

ゆっくりとした動きで、馴れ馴れしくピョンピョンと跳んでいるはずだ。

 

アナウサギ

 


 ウサギと言えば『アマミノクロウサギ』が一番有名だろう。

特別天然記念物に指定されており生物の教科書にも出てくるので、生物の教員として一度は見てみたいとずっと思っていた。

そのアマミノクロウサギを初めて見たのは、10年ほど前の奄美大島である。

九州両生爬虫類研究会の鹿児島大会が奄美大島で開催されたとき、夜の観察会に参加し、アマミノクロウサギを捜して走り回った。

車のライトに照らされて、じっとたたずむアマミノクロウサギ。

やっと念願がかなったという気がした。

残念ながら写真を撮ることができなかった。

せめて、その時の思い出として、どこにでもいたヒメハブと昼食で食べた鶏飯の味をあげておきたい。

 

ヒメハブ(2013年2月、奄美大島で撮影)

 

おいしかった鶏飯(2013年2月、奄美大島で撮影)