長崎県のカスミサンショウウオ(カスミ)の分布について述べてみたい。
県本土のカスミ分布調査は比較的たやすい。
冬季から春にかけてのちょっとした時間に、適当な水場に行き、卵のうを捜せばよいだけである。
もし、少し時期を逃しても、6月ぐらいまでは幼生の姿で水中にいるので網ですくって確認もできる。
カスミサンショウウオの卵のう(2021年2月21日、西彼杵郡長与町で撮影)

カスミサンショウウオの幼生(1985年4月26日、西彼杵郡長与町で撮影)

島での調査も同じだが、問題はなかなか島には渡ることが難しいということ。
時間的な制約や金銭的な問題もある。
何十年もかけて調査したのはそういう事情である。
海上保安庁は1987年9月の発表で、「周囲が0.1km以上のもの」を島と認定し、日本には6852島存在するとしていた。
その中で、長崎県には971の島があり日本一となっていた。
しかし、2023年に改定され、現在では日本の島の数は14125島、長崎県は1479島となった。
改定後も島の数としては日本一を保っている。
無人島に上陸することは非常に難しいが、有人島は定期船が出ているので比較的簡単に上陸できる。
長崎県にある有人島の中で、県本土と橋により陸続きとなっているのは12島である。
これらの島々は車で簡単に行けるが、残りの島々は船を利用しないと行くことはできない。
離島の離島になると2泊3日の旅になる。
高校の教員をしながらの調査は、時間的にも金銭的にも大きな負担であったが、「一生をかけて長崎県の島嶼を周り両生類や爬虫類の分布を調べる」という長期的な展望の基に実行していった。
2015年5月13日は私にとって記念すべき日である。
有人島全島上陸(3島は自衛隊関係等で上陸不可)達成のための最後の島、宇久島の離島である寺島に上陸した日なのだ。
イノシシに占拠されたこの島は、鉄柵で港の人家周辺だけを囲い、7人の島民はその中で生活していた。
港に設置されている観光案内板にはいろいろと魅力的な場所が示してあるが、港から遠出できるのは、離れた場所にある綺麗に掃除された墓地とそこまでの細い山道だけであった。
当然のことだが、道も墓地も周囲をきれいに鉄柵に囲われていた。
10年も前のことだが、あの時話をしたおばあちゃんたちは元気にしているだろうか。
佐世保市宇久町寺島の港(2015年3月15日、宇久寺島で撮影)

寺島港にあった観光案内版(イノシシ除けの鉄柵のためどこにも行けなかった)(2015年3月15日、宇久寺島で撮影)

島の調査の第一目的はヤモリ(長崎県の島嶼には4種のヤモリがいる)であったため、カスミを中心に調べまわったわけではない。
それでも、下図のように五島列島の①福江島、②久賀島、③奈留島、④椛島、⑤中通島、⑥小値賀島、⑦宇久島、⑧六島(小値賀島の属島)や⑨壱岐島、平戸諸島の⑩平戸島、⑪生月島、⑫的山大島、伊万里湾に浮かぶ⑬鷹島、⑭福島の島々、⑮長崎半島の樺島で卵塊や成体を確認することができた。
カスミ専門に調査を実施すれば分布域は増えていくように思う。
⑯長崎県本土についてはほぼ全域で確認済みである。
カスミサンショウウオの確認場所

カスミサンショウウオの卵のう群(2012年4月1日、平戸市で撮影)

カスミサンショウウオの卵のう(2014年3月20日、五島福江島で撮影)

カスミサンショウウオの成体と卵のう(2012年2月25日、五島椛島で撮影)

カスミサンショウウオの成体(2012年2月26日、新上五島町(中通島)で撮影)

カスミについての思い出が一番大きいのは小値賀島の離島「六島」である。
2015年3月14日、人口7人というこの島に上陸し、島内のヤモリ等の調査をしている時、閉校した六島小中学校を探検した。
2002年に最後の一人の中学生が卒業し閉校となったということが、いまだに残っている掲示物から理解できた。
しかし、職員室や保健室・理科室などがそのまま残っており、いつ再開してもいいように見えた。
そこの、草に覆われた中庭の雨水が少し溜まった池にカスミの卵塊が一対あり、ビックリしてしまった。
管理されていた当時からしばらくの間は雨水が溜まりそれなりの水量があったのだろう。
しかし、今では水は少ししかなく、前日のような雨が時々降ってくれることを祈った。
このまま死に絶えてしまうのかもしれないと思ったが、今まで生き延びてきたカスミが、人がいなくなってしまったぐらいで、簡単にくたばる訳はないと思っている。
その後、ほとんどの島民が島から離れ、一人の男性が頑張っていると聞いた。
今はどうなっているのだろう。
六島小中学校の1階廊下(2015年3月14日、新上五島町六島で撮影)

六島小中学校の教室跡(2015年3月14日、新上五島町六島で撮影)

六島小中学校中庭にあった小さな池の跡(2015年3月14日、新上五島町六島で撮影)

カスミサンショウウオの卵のう(2015年3月14日、新上五島町六島で撮影)

カスミがいるかどうかを、聞き込みで調べることもあるが、ほとんどあてにはできない。
カスミは意外と知られていないのである。
いろいろな場所で、名前や写真を見せて「いますか?」という生息確認をしたが、多くの場合が見たこともないという返事が返ってくる。
しかし、聞いた農家の家の前の水路にはちゃんと卵のうがあったり幼生がいるのである。
こんなことが何回となくあった。
方言調査でも同じことで、「見たこともない」とか「むかしからサンショウウオという名前」という返事が返ってくる。
私の初任は壱岐高校である。
壱岐の両生類を調べている時、農作業をしている人に写真を見せたら「とことこ」はいるよという返事。
初めて聞いた名前で、壱岐ではカスミサンショウウオを「とことこ」と呼んでいることを知った。
これが、後々、両生類や爬虫類の方言採集の旅へとつながっていく。
カスミサンショウウオ(とことこ)の成体(2019年3月7日、壱岐島で撮影)

その後も、カスミの方言を聞きまわったが佐世保市宮地区での「ししみしょう」と平戸の「ししょむしょ」しか発見できなかった。
他の地域では「知らない」か「さんしょううお」である。
西彼杵郡長与町でも「ししみしょう」という方言を聞いたので、旧大村藩ではそう呼んでいたのかもしれない。
佐世保市宮地区ではこんな話も聞いた。
『ししみしょうは非常に有毒であり素手で触ってはいけない。マムシはこの「ししみしょう」を食べることによって毒を持つのだ。』と。
実際の所、毒は持たないので、似ている有毒なアカハライモリと混同しているのかもしれない。
この話を聞いた相手は、まだ元気だったころの父と親戚のおじさんからである。
「ししみしょう」という名前を見るたびに今は亡き父親のことを思ってしまう。