小さなモグラの仲間、「ヒミズ」について紹介しようと思う。
モグラ(長崎に生息するモグラはコウベモグラ)という名前は有名なのでみんな知っているが、その仲間のヒミズはほとんど知られていない。
ヒミズは、分類学的には、哺乳綱、トガリネズミ形目、モグラ科、ヒミズ属のヒミズになる。
高山帯にはヒメヒミズというよく似た名前のものもいるらしいが、長崎には多分いないだろうと思っている。
ヒミズ(2000年1月、佐賀県で撮影)

ヒミズという名前の由来は、日光が当たる場所には出ないという「日を見ることはない → 日見ず(不日見)」から付けられたらしい。
こんな名前を聞くと、生きものの名前は生態的な特徴をよくつかんでいるなあと感心してしまう。
昔の人にとっては野生の動物は大変身近なものだったのだろう。
私は生きている健康な姿を自然界で見たことがない。
子供のころ、我が家で飼っていたネコが自慢げに見せてくれたまだ息のある姿を見たことはある。
その時は小さなモグラだなあと思っていた。
ヒミズの存在を知ってからも生きている姿に出会うことはなく、その確認はすべて転がっていた死体やトラップにかかった死体によるものであった。
道路上や草地で発見する死体は、誰かに噛まれた跡があり怪我をしている個体がほとんど。
多分、ネコやキツネなどに肉食動物が餌として捕まえたものの臭い匂いのため放置したのだろう。
ヒミズの死体(1989年4月、雲仙市で撮影)

ヒミズの死体(1995年10月、諫早市で撮影)

ヒミズは、体長(しっぽを除く)10cm程度で、やや長めのしっぽを持ち、鼻先はとがり目は小さい。
毛色は黒っぽいが、形はまさに小さいモグラという感じである。
前肢が、コウベモグラほどは発達していないため、穴掘りは不得意で、落ち葉の下や腐植土中の半地中生活をおくっている。
コウベモグラ(1986年5月、諫早市で撮影)

ヒミズの背面(2000年1月、佐賀県で撮影)

ヒミズの腹面(2000年1月、佐賀県で撮影)

土中に穴を掘ることは難しいようで、下の写真のように坑道の上半分は地表面に出ている。
落ち葉を取り除いた地表面や石や物の下にこのような坑道を見ることができる。
餌はミミズや地上を徘徊する昆虫で、意外と人家周辺から山中まで広い範囲に生活している。
ヒミズの坑道(1997年2月、佐賀県で撮影)

北海道を除く日本全域に生息し、長崎県でも島嶼も含む県内各地に分布している。
ただ、壱岐の島だけにはモグラ同様分布していない。
九州本島や対馬・五島列島には分布しているのに、その間にある壱岐だけに生息していないのは不思議でたまらない。
シーボルトの標本をもとに出版されたファウナヤポニカにもモグラと同じページに書かれているので、そんなに珍しいものでもなく、江戸時代の長崎の町では普通にいたのであろう。
ファウナヤポニカのヒミズ(上:コウベモグラ 下:ヒミズ)

再度になるが、長いこと山歩きをしていても、まだ生きた姿を見たことはない。
何とか生きているような写真を撮りたいと思い、土の中に半分埋めてさも今出てきたみたいな雰囲気にしてみた。
無理があるだろうか。
生きているように見えるだろうか。
完全なやらせではあるが、生態写真の撮れない未熟な私の精一杯の試みということで勘弁していただきたい。
生きているかのように撮影したヒミズ(2000年1月、佐賀県で撮影)

土の中から出てきたように写したヒミズ(2000年1月、佐賀県で撮影)

ヒミズが被害者となったすごい写真がある。
ジムグリというヘビがヒミズを飲み込んでいるようすである。
ヘビの苦手な人にはちょっと刺激が強すぎるかもしれないが、撮影者の許可も得たので紹介してみたいと思う。
この写真は、2021年(令和3年)5月21日の午前中、佐世保市世知原町開作の道路脇で撮影されたものである。
撮影者は佐世保市在住の川内野善治氏。
その時のようすを聞いてた。
朝の7:33から40分間、写真を撮りながら観察したそうだ。
ヘビのジムグリはまだ幼蛇(親と子供では体色が異なる)なのでちょっと小さめ。
それに対してヒミズは結構大きい。
40分の観察中、悪戦苦闘中のジムグリは飲み込むのに大変苦労していた。
最後まで見届けたかったそうだが途中で中断、用事を済ませて2時間後に見に行った時にはジムグリもヒミズも見当たらなかったとのこと。
飲み込むのをあきらめて両方とも逃げたのか、無事食事が終わってヘビだけ去ったのか、どっちだろう。
川内野氏によると、「ヒミズは動かず死んでいたようなので、飲み込んだのであろう」ということだった。
なかなか出会えないシーンである。
ジムグリに飲み込まれるヒミズ(2021年5月、佐世保市で撮影)

ジムグリに飲み込まれるヒミズ(2021年5月、佐世保市で撮影)
