これも毒ヘビ「ヤマカガシ」

 私は長崎県のヘビの調査をしているが、本来、ヘビが苦手である。

その証拠に、予期していないときにヘビに出会うと、見た瞬間に数歩後ろに下がっているし、心臓はドキドキしている。

何人ものヘビ好きの人を知っているが、その人たちは見た瞬間に飛びついている。

私の場合は、まず、ヘビがいることを認識し心を落ち着ける。

その後でゆっくりと捕まえる。

タイムラグが生じるので逃がしてしまうことがある。

これは私の大きな欠点で、ヘビ類を調べていますという資格はないのかもしれない。

長崎県内にヘビの研究者がいればすべてお譲りしたいが、いないので仕方なくという感じであろうか。

50年以上前、高校教諭として長崎県内の両生類調査を始めたころ、長崎県で両生類や爬虫類を調べている人はいなかった。

ましてや、ヘビとなると、みんなから珍しがられたものである。

 

公園内のヤマカガシ(2001年10月、諫早市で撮影)



 今回紹介するヤマカガシは、長崎県内ではシマヘビと同様最も目にする機会が多い。

子供のころは、「びっきとり」と呼んでいた。

ヤマカガシという名前を知ったのは高校生になってからである。

その頃は、毒のないヘビと認識し、毒を持っているのはマムシ(ひらくち)だけと思っていた。

ヤマカガシも毒蛇だと認識したのは、教員になってからである。

 

 ヤマカガシは、体長1m前後の中型ヘビで、体色は黄白地に黒と橙色が入る。

水田や森林に生息し、主にカエル類を捕食している。

車で走っていて一番見かける轢死体はヤマカガシである。

里山の水田地帯は車の往来が激しいので仕方のないことかもしれない。

そんな時、大きな死体を見つけると「ここまで立派に育ったのにもったいないなあ」と思ってしまう。 

 

道路上のヤマカガシ(2001年6月、諫早市で撮影)

 

交通事故による轢死体(2024年4月、長崎市県民の森で撮影)

 

卵の見えるヤマカガシの轢死体(撮影日不明、諫早市で撮影)

 

 

 ヤマカガシの毒腺は昔から知られていたが、目立った毒牙がないため、心配ないと考えられてきたようだ。

しかし、1984年に愛知県の中学生が噛まれて死亡して以来、毒蛇として認識され始めた。

長崎県大村市でも2011年7月に噛まれて重傷化した例もあり(長崎新聞に紹介された)、ますます毒蛇として恐れられるようになった。

2017年7月には、兵庫県の小学5年生がヤマカガシに噛まれ、一時意識不明になったという記事もあった。

ここに上げた3例に共通していることは、3人とも大のヘビ好きであったということだ。

3人とも、触って遊んでいる時に思い切り深く嚙まれている。

そして、ヘビ好きだからあわてて放そうとしなかったかもしれない。

ヤマカガシの場合は、マムシのように噛まれたらかなりの確率で毒が入るのではなく、口の奥の方にある小さな牙からの毒なので簡単に毒が入ることはないのである。

確実に大きく口を開けた状態で噛まれ、あわててヘビを排除しないときに毒が入ると思ってよいだろう。

私も、幼蛇(生まれたてのヘビ)を手のひらに乗せて遊んだことはあるが、親となるとそんなことはしない。

当然のことだが、マムシの幼蛇でもこんなことはしない。

 

手の上のヤマカガシの幼蛇(1985年、長崎市で撮影)

 

2017年7月のネット記事

 

 その頃、色々な人から、「ヤマカガシが公園にいるけどどうしたら駆除できるか」や「ヤマカガシがいるけどどう対応したらよいか」という質問を受けた。

その時の答えはいつも同じで「いじめたり捕まえたりしない限り噛まれることはありません。ヘビの方から人を恐れて逃げてくれます。」であった。

逃げ場のない所に追い込み意地悪をすれば、当然、噛みついてくる。

いわゆる、「窮鼠猫を噛む」の状況。

どんなおとなしい動物であっても、その状況になれば噛みつくはず。

だから、ヘビが苦手な人やヘビに対して普通の感情を持つ人がそんなことをすることはないので、噛みつかれるはずがないと思う。

下図は、調査中に私を見て慌てて逃げだしたヘビを撮影したものである。

 

木の枝を使い上手に逃げるヤマカガシ(2003年9月、平戸市的山大島で撮影)

 

山中の橋の上で逃げ惑うヤマカガシ(1999年6月、諫早市で撮影)



 もし噛まれた場合は、血清(薬)を打つとよいそうだ。

ただし、マムシの血清はいろいろな病院で常備されているが、ヤマカガシのものは病院には置いてない。

噛まれて体に異変が出たときは、群馬県太田市薮塚にある「ジャパンスネークセンター」に連絡を取り対応してもらった方がいい。

ヤマカガシの血清は劇的に効くと聞いたことがあるので、ヘビ好きな人は覚えておいた方がいいかもしれない。

下図は、私の「長崎県の両生・爬虫類」という本の中で紹介したジャパンスネークセンターのページである。

2005年発行なので、かなり古い記事だが、対応は今も変わらないので参考にしてもらいたい。

 

ジャパンスネークセンターの紹介(長崎県の両生・爬虫類(2005年3月発行))



 ずっと昔の話であるが、生物部の生徒と一緒に外に出ている時、生徒の一人がヤマカガシに噛まれた。

本人が噛まれたヘビを捕まえてきたので間違いない。

ちょっとだけ噛まれたということで心配はないと思ったが、気になって病院に連れて行った。

病院の先生はヤマカガシが毒ヘビであることを認識しておらず、どのように扱われたかは覚えていないが、簡単に終わったように記憶している。

もし、毒が入っていたら数時間で体に異変が起こると聞いていたのでしばらくは心配だったが、本人は噛まれ慣れているらしく気にもしていなかった。

 

 ヤマカガシはヒキガエルが大好きである。

山中でヤマカガシがヒキガエルを飲み込んでいる写真を長崎ケーブルメデイアの藤岡さんから頂いたので紹介したい。

私も、一度でいいからこんなシーンに巡り合いたい。

飲み込まれるヒキガエルのつぶらな瞳を見ると助けてあげたい気もするが、これも自然の摂理、じっと観察するしかないと思っている。

 

ヒキガエルを飲み込むヤマカガシ(撮影日不明、諫早市で撮影)



 最後に、みなさんにお願いをひとつ。

 ヤマカガシが毒蛇だからと言って、すべて退治しなければならないと思わないで欲しい。

普段の生活で噛まれることはなく、触ったりいじめたりしない限り危険は全くないからだ。

 きっと、人がヤマカガシを恐れるより、ヤマカガシの方が何倍も何倍も人を恐れているはずだ。

 

日向ぼっこ中のヤマカガシの幼蛇(2018年4月、長崎市で撮影)