森にすむネズミ「ヒメネズミ」

 長崎の森にすむ野ネズミは、だいたいが2種類である。

人里近くの森にはアカネズミ、少し深い山になるとヒメネズミが生活している。

この分布にはきれいな境界線があるわけではなく、混在している場所も多い。

アカネズミは地表面を生活の場所としているが、ヒメネズミはそこだけではなく得意の木登りを生かして森を立体的に利用している。

両者を見ただけで識別することは大変難しい。

私たちは、尾の長さ(頭胴長との比較)や肢の裏の長さなどを測定して判断していたが、その時の結果を書いても面白くないので、ヤマネ調査のとき同時に見ていたヒメネズミについて紹介したい。

 

アカネズミ(2002年8月、雲仙市で撮影)

 

ヒメネズミ(2002年8月、雲仙市で撮影)



 以前、諫早市轟の森でヤマネの調査をしていた。

調査方法は、森の中の木に巣箱を設置し、ヤマネが利用してくれるのを待つというものである。

森の中に設置した巣箱は、ヤマネだけでなく、シジュウカラやヤマガラなどの鳥類とヒメネズミが利用する。

鳥類は、5月前後の繁殖期だけであるが、ヤマネとヒメネズミは冬季を覗いてほぼ1年中利用していた。

巣箱利用の3者の違いは顕著でありすぐに分かる。

鳥類は巣箱の中に皿状に苔などを敷き詰める。

ヤマネは樹皮やコケを使い巣箱をいっぱいにする。

ヒメネズミは枯れ葉で巣箱の中を満たしていく。

同じ場所に棲んでいるアカネズミは樹上の巣箱を利用できないので、巣箱を利用したらヒメネズミということになる。

 

ヤマネ調査用の巣箱

 

ヤマネの利用した巣箱(キダチニンドウの樹皮)

 

ヤマガラかシジュウカラの利用した巣箱

 

ヒメネズミの利用した巣箱(枯れ葉がいっぱい)



 枯れ葉のいっぱい詰まった巣箱から枯れ葉をゆっくりと除いていくと、親のヒメネズミや子供のヒメネズミがジーとしている。

たくさんの写真を撮ることができたが、これは自然の姿ではなく顔のひきつったおびえた姿であろう。

 

枯れ葉を除いた巣箱にいたヒメネズミ(1996年10月、諫早市轟の滝付近で撮影)

 

枯れ葉を除く途中で出てきたヒメネズミの子供(1997年9月、諫早市轟の滝付近で撮影)



 ヤマネ調査も後半になると、自動撮影カメラを利用するようになった。

自動撮影カメラには、ヤマネもヤマガラやシジュウカラもヒメネズミも撮影されていた。

 

自動撮影カメラだ撮影されたヤマネ

 

自動撮影カメラで撮影されたヤマガラ

 

自動撮影カメラで撮影されたヒメネズミ



 巣箱の上でちょろちょろするヒメネズミの連続した写真を数枚紹介したい。

 

この箱の上まで登ってみよう

 

結構高いところにあるなあ

 

子育てにいいかちょっと覗いてみよう

 

 

 ヤマネの巣箱調査実施中の思い出を一つ紹介する。

巣箱の中で子育て中のヒメネズミに遭遇した時のことである。

巣箱のふたを開けると勢いよく親ネズミが逃げ出した。

巣箱の中の枯れ葉をめくってみると中には子どもが残っている。

ふたを閉め、10分程度であったろうか巣箱のそばの岩の上で休憩していると、逃げ出した親ネズミが目の前に現れたのである。

まさか、親が巣箱に戻ってくるとは思っていなかったので、びっくりしてしまった。

実は、親ネズミは戻ってくることはなく子ネズミたちに申し訳ないことをしたなあと思っていた。

親ネズミは、私の目の前を通り、ゆっくりと巣箱に入り、子ネズミを口にくわえて安全な所へと運び出してしまった。

私がカメラを構えシャッターを押しても気にすることもなく通っていく。

巣箱に向かうときは慎重にゆっくりとだが、子ネズミをくわえた後は素早い。

子ネズミをくわえた写真も撮ればよかったのだが、感動で見入ってしまいシャッターを押すことを忘れてしまっていた。

 

 ネズミの自然界での生態写真は、自動撮影カメラを使用しない限りほとんど撮影できない。

私は多くの種類のネズミの写真を撮影している。

しかし、それらはすべて、いったん捕獲した後に逃がしながらの撮影というやらせである。

この時は、普段撮影できない自然の姿がゆっくりと撮影することができた。

不審者である私が巣箱の側にいても、我が子を助けるために巣箱へ向かう親ネズミまでの距離は、目の前1mであった。

これらの写真は、感動しながら撮った写真である。

 

目の前を通るヒメネズミ(1999年9月、諫早市轟の滝で撮影)

 

目の前を通るヒメネズミ(1999年9月、諫早市轟の滝で撮影)

 

目の前を通るヒメネズミ(1999年9月、諫早市轟の滝で撮影)