長崎県にもリスがいることをご存知だろうか。
長崎市内ではなく、五島市福江島の一部と壱岐全島に普通に生息している。
さらに、島原半島でも生息が確認された。
島原半島の記録は、長崎県生物学会誌(2026年、No98)に安田氏らにより報告されている。
もともと、長崎県にはリスの仲間は生息していなかった。
それが、場所によって普通に見られるのは、3地点ともリス村という観光施設から逃げ出した個体が野生化して増えたものである。
リスの名前はクリハラリス。
台湾から観光用に持ち込まれた外来生物である。
クリハラリス(2002年8月、島原半島旧雲仙リス村で撮影)

クリハラリス(2002年8月、島原半島旧雲仙リス村で撮影)

クリハラリスは東南アジア全域に広く分布するが、日本には台湾南部から持ちこまれたようで、タイワンリスと呼ばれることが多い。
全身灰褐色で腹部はやや白い。
頭胴長20cm程度でふさふさとした長い尻尾をもつ。
本州や北海道にいる日本産のキタリス・ニホンリス・シマリス比べると、その姿が可愛くないように感じてしまう。
私の偏見だろうか。
1935年、伊豆大島で観光用に飼育されていた個体が逃げ出し、農作物や樹木に大きな被害を与え問題になった。
その後、複数の県で同様なことが起こり続けた。
長崎県の福江島や壱岐で問題視され始めたのは20年ほど前からである。
島原半島のリス村も閉園してしまったので、逃げ出したであろうリスの被害は今後問題になっていくかもしれない。
閉園後の雲仙リス村の看板(2011年8月に撮影)

クリハラリス(2002年8月、雲仙リス村で撮影)

クリハラリスは特定外来生物に指定されている。
特定外来生物とは、飼育、移動、販売や譲渡、野外に放すこともすべてが禁止されている外来生物のことで、違反した場合には法的な罰則規定もある。
長崎県に侵入している特定外来生物は、哺乳類ではクリハラリスとアライグマの2種である。
特定外来生物に指定されているアライグマ(2019年9月、佐世保市の森きららで撮影)

五島福江島と島原半島のクリハラリスについてはよく分からないので、壱岐について述べてみたい。
私は、1974年(昭和49年)から1979年(昭和54年)まで、壱岐の島にある壱岐高等学校に勤務していた。
その間は、当然のことだがリスはいなかった。
1992年(平成4年)に勝本町の森の中にリス村が開園したようだ。
はっきりとは覚えていないが、開園間もないころに二度ほど子どもと一緒に見学したことがある。
広い園内には遊具施設もあり、たくさんのクリハラリスが飼育されていた。
子どもと一緒に遊びながら、その時は「リスってかわいいなあ」と思ったものである。
しばらくすると、理由は分からないが閉園したということを聞いた。
閉園時期ははっきりしないが2000年ごろであろうか。
お客さんが少なく採算が取れなかったのかもしれない。
問題は、閉園後のリスの処遇である。
噂では、一部は雲仙リス村に移動させられたと聞いた。
でも、逃げ出した個体も多かったとも聞いた。
伊豆での問題を知っていたので、大変なことになるかもしれないと危惧していた。
閉園後の、2002年8月14日にリス村を訪れると、雑草が生い茂る中、入り口の門柱と建物はしっかりと残っていた。
付近を調査してみると、はっきりとした姿ではないが大きな木の中を走る小さな生き物の姿が見えたし、ガサガサという音を聞くことができた。
リスがいるなあという雰囲気に満ちている感じがした。
壱岐リス村の門柱(2002年8月、壱岐市勝本町で撮影)

壱岐リス村の建物(2002年8月、壱岐市勝本町で撮影)

その頃、農家の人にクリハラリスについて聞いて回ったことがある。
「リスならリスらしく木の上で木の実でも食べていればいいのに、果樹園や野菜畑に入ってきて実を食べている」とか「スギやヒノキの樹皮を剝いでいる」「住宅に侵入し電線や電話線に被害がでた」などなどと話していた。
そして、多くの人が、「リス村から逃げ出した」「閉園の時、逃がしたらしい」とか話していた。
私が聞き込みをしたその頃は、勝本町の一部だけのようであったが、年を追うごとに生息範囲が広がり、今では全島制覇をしたようである。
ドライブ中に電線から落ちた死体を見たこともある。
クリハラリスの死体(2005年8月、壱岐市勝本町で撮影)

だいぶ前から駆除も始まっており撲滅を目指しているようだが、一旦増えた野生動物の駆除は難しい。
クリハラリスの捕獲用トラップ(2014年3月、壱岐市勝本町で撮影)

トラップにかかったクリハラリス(2014年3月、壱岐市勝本町で撮影)

トラップにかかったクリハラリス(2014年3月、壱岐市勝本町で撮影)

福江島や壱岐で増加した理由は、比較的温暖であること、樹上生活をする競争相手がいなかったこと、食料となる果実が多いこと、林業の衰退と共に人の入り込まない安全な森が確保できたこと、島には天敵となる肉食の哺乳類(キツネやテンなど)がいないこと、などが考えられる。
「リスのすむ島」といえばロマンチックに感じるが、そこに住む人々は大変。
異国の地でたくましく生きるリスとそこに住む人間や野生動物との共存は実に難しい。