「アリジゴク」の解釈もいろいろ

 私は、長崎ケーブルメデアの「なんでんカフェ」という番組の中で、「かえる先生のいきもの交遊録」という一つに関わっている。

月一本の出演で、17分程度の生きもの関係の生番組だが、高校教諭を退職した年からなので、15年続いている。

昨年からふた月に一本になったが、長崎県のいろいろな動植物を紹介してきた。

私のブログ名と同じタイトルの番組であるが、実をいうと、番組名を個人的に使わせてもらっている。

長崎ケーブルメデアの方には感謝感謝である。

同じタイトルを検索すると今までの番組の方も検索されるので、動画の方も見ていただけたら幸いである。

 

 ある年の6月、「アリジゴクって知ってる」という番組を放送した。

本番直前のリハーサルの時、MCの方にアリジゴクを知っているかと聞くと、「すり鉢状のはい上がれないような穴(図1)」のことで、そのような状態を指す言葉だと答えてくれた。

私が、アリジゴクとは昆虫の一種(図2)で、餌をとるためにすり鉢状の落とし穴を作り、その下で待ち伏せしている昆虫の一種だということを説明するとびっくりしていた。

 

図1.すり鉢状の這い上がれないような穴

 

図2.アリジゴクという名前のウスバカゲロウ幼虫

 

 

私は驚いてしまって、番組の本題は、「アリジゴクは成長するとウスバカゲロウというトンボみたいなものになるのですよ」だったのを、「アリジゴクとはウスバカゲロウという昆虫の幼虫の名前ですよ」という内容に変えることにした。

番組中にながすVTRはそのままに、本番の生放送での会話は全く異なったものになった。

 

 私たち生き物を扱う者にとっては、アリジゴクは昆虫であり、すり鉢状の落とし穴はアリジゴクが作った餌を捕るための作品である。

しかし、普通の人にとっては、アリジゴクとは這い上がれないすり鉢状の構造物やその状況のことだったのだ。

 放送後、他の人からもMCさんと同じ感想を聞いた。

自分がたまたま知っている生物の世界のことを、みんなも知っているはずだという思い込みを大きく反省した次第である。

私とMCさん、「お互いに目からうろこ」だった。

読者のみなさんは、アリジゴクと聞いてどんなふうに思われるのだろうか。

気になるところである。

 

図1.すり鉢状の這い上がれないような穴

 

図2.アリジゴクという名前のウスバカゲロウ幼虫

 

 

 

アリジゴクとは、ウスバカゲロウ科の幼虫の総称でいくらかの種類があるそうだ。

その中でも種としてのウスバカゲロウが長崎県内では最も多く、いろいろな場所で見られることになる。

その一生は、卵 → 幼虫(アリジゴク)→ 蛹 → 成虫(ウスバカゲロウ)という完全変態だが、幼虫時代の特徴的なすり鉢状の落とし穴が特徴である。

簡単に言えば、アリジゴクとは、トンボならヤゴ、モンシロチョウならアオムシみたいなものである。

アリジゴクは、そのすり鉢状の一番下に潜み、落ちてきたアリなどの虫を大きな顎で挟み込む。

捕らえた獲物に消化液を注入し、体組織を分解したのち吸汁する。

吸汁後の残った抜け殻は、大顎を使って外に放り投げる。

だから、巣の周りにはいろんな昆虫の抜け殻が散在することになる。

ただ、すべてのウスバカゲロウの仲間がすり鉢状の落とし穴を作るわけではなく、徘徊してエサを探す種もいるそうだ。

ずっと昔、長崎北陽台高校の生物部といっしょに新上五島町の野崎島で合宿した際、海岸の砂地をはい回る大型のアリジゴクを見た記憶がある。

きっと、それが巣を作らないやつだろう。

 

ちょっと見にくいが、アリが落ちたアリジゴクの落とし穴(長崎女子短大で撮影)



長崎女子短大の私のゼミの活動の中にアリジゴクの観察を入れたことがある。

水槽の中に乾いた細かい砂状の土を入れての飼育である。

すり鉢状の落とし穴を作るようすや餌を食べるようすを観察しては喜んでいたが、そのうちにみんながその存在を忘れてしまった。

しばらくして見てみると、落とし穴が無くなっていた。

死んだのかなとあきらめつつも、その場所を掘ってみると指の爪くらいの丸い土の玉が出てきた。

蛹のための繭だった。

これまた、そのままにしておいたら、忘れたころにトンボみたいなウスバカゲロウが出てきた。

 

水槽の土の中から出てきた直径1cm程度の繭(長崎女子短大松尾研究室で撮影)

 

蛹がふ化してウスバカゲロウが出てくる(長崎バイオパークの標本を撮影)



   

 昭和の30年代が私の子供時代。

佐世保の田舎の方で、チャンバラやメンチ・コマ回し・三角ベースでの野球などいろんな遊びをしていたが、自然の生きものとの遊びも盛んだった。

その中の一つとして、アリジゴク釣りをした経験がある。

アリジゴクの落とし穴に木の枝先を入れゆっくりと動かしていく。

そうすると、大きな顎で挟み込んでくる。上手にやるとアリジゴクを釣ることができるのである。

そんな昔を思い出しながら、いろんな場所でアリジゴクを捜してみた。

人家の小屋の中、橋の下、神社の軒下、道路脇の崖、大きな木の根元、森の中の公園のベンチの下など、多くの場所で発見することができた。

ポイントは、風雨を避けられるようなさらさらした細かい砂状の土がある所。

直接雨が降り注ぐような場所にはいないということだけに注意をすれば、誰でも捜せると思う。

 

農家の小屋の中のアリジゴク(壱岐市で撮影)

 

橋の下のにあったアリジゴク(東彼杵町河川公園で撮影)

 

神社の境内にあるアリジゴク(長崎市矢上神社で撮影)

 

山中の道路わきの崖にあったアリジゴク(大村市で撮影)

 

スダジイの根元にあるアリジゴク(大村公園で撮影)

 

 

要領が分かってくると、何となく、この場所にはいるはずと分かってくる。

いろんな場所をドライブしながらのアリジゴク探し、楽しいひと時であった。