身近にいる「カスミサンショウウオ」その1

 カスミサンショウウオについてはいろいろと調べたので書くことが多い。

3回に分けて書きたいと思う。

まず1回目は概要、2回目は調査(分布や方言)、3回目は歴史である。

 

 現在、私の研究室には2匹のカスミサンショウウオ(カスミ)がいる。

名前は「カスミちゃん」。

なんていい名前だろう。

 

飼育しているカスミサンショウウオの「カスミちゃん」


 水槽には平成27年2月生まれというラベルが貼ってある。

平成27年というと2015年のことだから、この子たちは11歳になったことになる。

実は、このカスミは他の人から譲ってもらったもので私が育てたわけではない。

2015年2月、長崎北高校の理科助手の先生が一対の卵塊を学校に持ち帰り、ふ化後の幼生から飼育を開始され、変態後の小さな幼体になってからも餌をやり続け、親にまで成長させたものである。

カスミの幼生の飼育は簡単だが、変態後の飼育は難しい。

なぜなら変態後はなかなか餌を食べてくれないからである。

私も何回か挑戦したことがあるが、せっかちな私は失敗ばかり。

それを、根気強く餌のアカムシを与えながら見事に4匹を大きく育て上げた。

この4匹のカスミは「カスミちゃん」と名付けられ、長崎北高生物室で大事に育てられていた。

生物室生まれの生物室育ち、自然を全く知らない子たちである。

それらの4匹を7年ほど前にいただくことになった。

仕事柄みんなの前で生きものについて話をすることが多い。

特に、専門の両生類について話すときには、本物を持参して話をすると大変喜ばれる。

最初のころは、毎回借りていたのだが、そのうちに我が家にいることが多くなり、やがては私の所にくることになった。

1年を通して講演等が入るので成体を飼育しておくことが必要になる。

しかし、親を捕ってきて飼育してもなかなか餌を食べてくれずやせ細ってしまう。

親からの飼育は難しいのだ。

その点、カスミちゃんはちゃんと餌を食べてくれる。

ピンセットから餌を食べてくれるまで育てていただいた理科助手の先生には感謝である。

 

カスミサンショウウオの卵のう(1匹の雌が産卵)

 

飼育中のカスミサンショウウオの幼生(冷凍アカムシを捕食中)



 4匹のうち2匹は私の所に来てから原因不明で死んでしまったが、残った2匹は今でも元気に育っている。

毎日のように、冷凍アカムシを溶かしたものやレッドローチという餌用ゴキブリを与えている。

 

2匹ともカスミちゃん(いつもは植木鉢の下にいる)

 

食事中(ピンセットで冷凍アカムシを解凍し食べてもらう)

 

食事前(レッドローチという餌用ゴキブリに気づいたところ)

 

食事中(レッドローチを捕食、調子がいいと何匹も食べてくれる)



 ちなみに、カスミの飼育は可能であるが法律的な規制もある。

そのことについては次回のケロ53で紹介したい。

 

 カスミの生態を簡単に説明しておく。

 カスミを野外で目撃することは非常に難しい。

それは、小さくて(10数cm程度)、枯れた葉のような目立たない色をしているから。

カスミサンショウウオ(霞山椒魚)のカスミという名前の由来は霞色からきていると思うのだが、本当のところは分からない。

でも、私は勝手にそれがいいなと思い込んでいる。

 

カスミサンショウウオ(2024年3月、長崎市で撮影)


 

 

 さらに、昼間はほとんど活動せず、夜間、森の落ち葉の下などをはい回っているから見つけることは困難になる。

私も、繁殖期以外で目撃したことはほとんどない。

カスミが多く目撃されるのは、冬季の繁殖期の水場である。

ほとんど水場に入ることのない成体は、産卵のためには(幼生が水の中で育つという両生類である)水場に集まるしかない。

この時期に、山手の水場に行くと成体や卵のう(卵を守っている薄い膜)が見つかることになる。

私のカスミサンショウウオの分布調査は冬季の1~3月で、1年で一番野外に出る季節になっている。

 

 冬季の1月から2月にかけて水田脇や湿地、小さな池などに集まり産卵する。

一匹の雌が一対2本の卵のうを生み、その中には100~200個の卵を含んでいる。

 

石の下に産卵された卵のうと次の雌を待つ雄(2012年3月、佐々町で撮影)

 

産卵された多くの卵のう(2012年4月、平戸市で撮影)



 卵は卵のう内で幼生となり、やがて外に飛び出していく。

幼生は水中で餌を食べ、春から初夏にかけて変態し上陸していく。

 

ふ化直前の卵のう(幼生が動き回っている)(2012年3月、西彼杵郡時津町で撮影)

 

赤虫を捕食中のカスミサンショウウオの幼生



 幼生には外鰓(鰓が外に飛び出している)があり、まさにウーパールーパーである。

ウーパールーパーはメキシコサンショウウオの幼生で、幼生のまま成長し繁殖できる珍しいサンショウウオ。

うまく育てると変態して外鰓のないサンショウウオになるらしいが、自分で確かめたことはない。

幼生のままだからかわいがられるのだろう。

 

カスミサンショウウオの幼生(外鰓)がはっきりと見える

 

ウーパールーパー(外鰓が残ったままのメキシコサンショウウオの幼生)



 変態後には外鰓はなくなってしまう。

上陸した個体は森の中で10数cmまで成長し、数年後には繁殖活動に参加するようになる。

 

変態後の幼体(外鰓はなくなってしまう)

 

カスミサンショウウオの成体(2019年3月、長崎市で撮影)



 とにかくかわいいカスミサンショウウオ。

長崎県にもそれなりに生息している。ただ、ほとんど知られていない。

しかし、産卵場所である水場の悪化や喪失により個体数はかなり減少しているようだ。

絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されているが、これ以上ランクが上がらないように祈りたい。