梅雨の季節、田んぼではカエルの合唱が聞かれるようになってくる。
その歌声は「ケロケロ」「ゲロゲロ」「コロコロ」「モーモー」とさまざまだが、みなさんは渓流に生息する『カジカガエル』の鳴き声を聞いたことがあるだろうか。
渓流のカジカガエル(東彼杵郡龍頭泉)

渓流のカジカガエル(五島市福江島)

渓流のカジカガエル(佐世保市)

その声は、ソプラノの美しい歌声を思わせるうっとりとするような美しさで、誰もカエルが鳴いているとは思わない。
まさに、「せせらぎの歌姫」であり、何も知らずに声だけ聞いていると、美しい鳥が鳴いている姿を想像してしまう。
ただ、「歌姫」といっても、カエルの世界で鳴くのは、ほとんどが雄だけなので「姫」という女性名称はおかしい気もする。
しかし、「殿」「若」なんて男性名称をつけて例えるような野暮なことはしない方がいいだろう。
5月中旬から6月のゲンジボタルの乱舞が始まる頃、渓流でカジカガエルのコーラスが始まり、7月初旬まで楽しむことができる。
昼間でも時々鳴くことがあるが、必ず聞けるのは夜の方。
車の中からも十分に聞くことができる高い声なのでエンジンを切って楽しんでほしい。
カジカガエルの成体の写真撮影はほとんどが夜である。
夜の渓流はちょっと危険な気もするが、カジカガエルが鳴いている姿を見るためなら仕方がない。
夜の一人歩き、カエルを捜している時は恐怖感がなくなるのは不思議なことである。
渓流の岩の上でなくカジカガエル(東彼杵郡龍頭泉)

卵を持った大きな雌が近づくと、雄は雌の背中に乗って抱きつく。
これを抱接(図5)と呼んでいる。
抱接するカジカガエルのペア(上が雄)(西海市)

抱接したカップルは渓流の石の下にある隙間に潜り込み、石にくっつく卵塊を産卵する。
カジカガエルの卵塊(石をひっくり返して撮影)(佐賀県富士町)

ふ化したオタマジャクシは、流れのある渓流で餌を食べながら成長し、8月ごろに変態して上陸する。
普通のオタマジャクシなら、流れに逆らえず下流へと流れいずれは海に行ってしまうが、カジカガエルの幼生は、口器で岩に吸いつくことができるため流されることは少ない。
カジカガエルのオタマジャクシ(東彼杵郡龍頭泉)

まさに、渓流に特化したオタマジャクシである。
カジカガエルは、渓流に産卵し、渓流でオタマジャクシの時期を過ごし、成体も渓流付近で生活する。
長崎では、渓流に紛れ込む他のカエルはいても、渓流で泳ぐオタマジャクシはこのカエルだけなので、ぜひ覚えておいて欲しい。
カジカガエルは、長崎県本土や五島列島の大きな河川に広く分布しており、意外と身近なカエルの一種である。
鳴き声を楽しむ私のお薦めポイントは、諫早市轟の滝、大村市黒木の郡川、東彼杵千綿の龍頭泉、西海市の雪ノ浦川上流や河通川のつがね落としの滝、長崎市の神浦川など。
カジカガエルが多い龍頭泉の滝(東彼杵郡龍頭泉)

つがね落としの滝(西海市)

五島列島の福江島でも多くの河川で鳴き声を楽しめる。
新上五島町の中通島では三王山の所を流れる荒川でしか確認していないが、ちょっと山の中に入らないといけないので聞くのは難しいかもしれない。
諫早市轟の滝の駐車場には、カジカガエルの置物がある。
本物に比べるとちょっと太めだなと思うが可愛いので見てほしい。
カジカガエルの置物(諫早市轟の滝)
